1954年生まれの私が小学生のころには、既にベトナム戦争は始まっていたようだ。
小学生高学年で、ケネディ大統領が登場し、その後トンキン湾事件という言葉を聞き、
さらに北爆という言葉を聞いた。
中学生になって、ニクソン大統領になってからも、ベトナムでのアメリカ軍の劣勢は続き
高校生のころには、戦争がベトナムからカンボジアに拡大した。
ニクソン大統領の中国訪問や金とドルの交換停止などというニュースとともに、大学生のころに米国との停戦協定が結ばれて、米軍が撤退した2年後にサイゴンが陥落して、南北ベトナムは統一された。
大学生だったころは、ボブ・ディラン、ジョーン・バエズ、PPM等の反戦歌が流行し、
日本でもフォーク歌手が反戦歌を歌った。
ミュージカル「ヘアー」を映画で見て、アメリカの抱える問題を知り、影響を受けて
髪を長くすることも流行った。
反戦は、若者のシンボルのようになったが、就職するとそれどころではなくなり、すっかり
忘れてしまった。
それでも「ディア・ハンター」「地獄の黙示録」「ランボー」など、戦場および戦争からの帰還兵を扱った映画のシーンは、心に残った。
少し前から、ある大学のシニアコースで、4回に分けて米国の政治を話すことになり、2回目のテーマに「米国の分断」を選んだ。
人種差別や貧富の差などについて調べていくうちに、トランプ大統領の登場とともに注目されている「ディープステート」についても触れるようと思って考えてみた。
米国駐在時に、仕事でいろいろな人と話したが、当時の50代(現在は80歳前後)の弁護士やオフィサーのなかに、時折出てくる話題がベトナム戦争だった。
「俺はトンキン湾の船上にいて港を見ていた」
という弁護士の一言に、オフィサーの何人かは、自分がどうしていたかを話していた。
ベトナム戦争従軍は、アメリカ人の心に深く残っているように思えた。
朝鮮戦争に続くベトナム戦争では、多くのアメリカ人兵士が戦地に向かった。
無事に生還した兵士もいたが、戦死者や捕虜になった人もいた。
なかでもアメリカにいる家族を最も不安にさせたのが、軍務中消息不明の兵士である。
英語では、戦死者はKIA(killed in action), 戦時捕虜はPOW(prisoner of war)、軍務中消息不明者はMIA(missing in action)と呼ばれる。
このうちでKIAは明確な証拠が必要なので、帰還しない兵士がいれば、POWかMIAに該当する。
ベトナム戦争を描いた映画では、戦争シーンとともに、戦争が終わっているにもかかわらず
現地に抑留されている兵士の奪還を描いたものも多い。
つまり、戦争が終わってアメリカ人兵士は誰も残っていない(全員戦死者KIA)はずなのに、実際は残っていて(POW/MIA)、米政権は、このことが世間に知られると、ベトナム戦争への反戦感情と政権批判がさらに高まって不都合なので、国民に隠蔽しているのではないかという陰謀論が語られるようになってきた。
つまりディープステートである。
これは日本でも似たようなことがあり、たとえば北朝鮮の拉致被害者問題で、一部の方が
帰国され、残りはいないという北朝鮮の発表をほとんどの人が信じていない。
日本政府はこの件について、もっと何かを知っているのではないか?という疑問を持つ人もいる。
アメリカでのディープステート議論が、ベトナム戦争に端を発しているかは、私にはわからないが、政治・経済の支配層が、高学歴のエスタブリッシュメントに占有される傾向が強まるとともに、世の中の発展に乗り遅れた人の中には、社会のエリート仲間内の隠し事に、疑惑の目を向ける人が増えてきていることが、トランプ大統領のディープステート攻撃の背景に存在すると思う。
実際には、ベトナム戦争後に起こったイラク戦争などの対外紛争、サブプライムローンに端を発するリーマンショックなど、一般国民からかけ離れたところで、大事件が勃発すると
「何がどうなっているのか?またエリートたちが勝手なことをやったのか!」
という方向に国民感情が流れることは十分に考えられる。
トランプ大統領がディープステートを執拗に攻撃しても、ディープステートは崩壊しないと思われる。
もしくはトランプ大統領とその仲間が、新たなディープステートを形成する可能性も大いにあると考える。
いずれにせよ、アメリカの政治は、これからもディープステートへの攻撃とエスタブリッシュメントからの反撃が続くだろう。
少なくともトランプ政権の4年間は、この動きは激しくなり、大きな波乱が続くと予想する。