• 定年男子のランとマネー

銀行に就職した若いころに、先輩たちに言われた言葉の一つに

「貸すも親切、貸さぬも親切」

という言葉があります。

今のように金融がユルユルではなくて、逼迫していた時代の銀行優位の言葉ですが、

お客様のことを本当に考えて、安易に貸出を実行するな・・という教えと理解しています。

ある意味では「顧客本位」なのですが、現代では借りてくれる会社がなかなか無くて、お客様の争奪戦になっているので、すでに死語かもしれません。

少し銀行員話を続けると

新卒で入社したころは、支店の窓口で預金の受付事務をしていました。

販売といっても、窓口のお客様に

「定期預金はいかがですか~」

と声をかけるくらいでした。

当時は貸付の原資として、定期預金を集めろと言われていたのです。

売っていた商品は定期預金と積立預金でした。

隔世の感がありますね。笑

外国事務センターでは販売はなかったのですが

スペインではスペインとポルトガルの借り手のニーズを聞いて回りました。

借り手のユーロマーケットでの調達をサポートするということですが、

競争が激しくて、銀行同士の出し抜きあいと借り手の接待合戦をやっていました。

おかげでスペイン料理の食べすぎとワインの飲みすぎで、体重が増え脂肪肝などの数値が悪化して、30歳でメタボ体型になりました。笑

売っていた商品は、シンジケートローン(協調融資)。

この販売は、信用リスクとの兼ね合いで、銀行がどれだけ身を削ってコストを下げて

借り手の要望に応えて提案を受け入れてもらえるかが勝負でした。

東京の国際金融部では、スワップやオプションを組み込んだ金融商品を

自分たちで開発して海外の借り手に売っていました。

海外不動産小口化商品という税制がらみの商品も売っていましたね。

いずれも自分たちで作った商品を売っていたので、顧客の反応を見てカスタマイズしたので楽しかったです。

自分たちが作った商品という範囲内ですが、顧客に寄り添った感がありました。

このころが商売をしていて一番納得感がありました。

売りに行く相手も金融のプロなので、刺激や手ごたえもありましたね。

米国に転勤してからは、不良債権の回収が主だったので

販売はあまりやっていません。

日本に帰ってきてからも、バブルの後始末で

悲しそうな目で睨んでくるお客様と

話すことのほうが多かったですね。

できるだけお客様の痛みが少ないように心がけましたが

残念でしたができることは限られていました。

リテールバンキングをやるようになって、個人のお客様と話すと

銀行がお客様のために提供できる商品の少なさに失望しました。

大きな銀行にとって、個人のお客様はあくまで資金の調達先でしかなかったのです。

この意識は、もしかすると今でも続いているかもしれません。

つまり顧客本位の商品開発をしてこなかったし、

顧客ニーズをとらえるノウハウもなかった。

これでは顧客本位の販売は難しいと思いますね。

そのあと銀行は証券から投資信託、保険会社から保険などを借りてきて販売しだしました。

いろいろな事情で銀行自身では顧客ニーズに合った商品開発は難しいのでしょう。

銀行が商品の幅を広げた背景にあるのは、手数料収入です。

手数料収入を上げるために、高い販売手数料の投資信託や保険をお客様に勧めます。

お客様は銀行が差し引く手数料の金額だけメリットが減るわけです。

手数料が高い商品は、一般に複雑です。仕組みを組み込むほどコストがかかるからです。

でも複雑な商品がお客様の役に立つかというと、逆のことが多かったように思います。

私は現在フィナンシャルプランナーとして活動しています。

フィナンシャルプランナー(FP)は「顧客本位」の立場で仕事に向き合うことを要求されているのですが、現場にいると「顧客本位」とはどういうことか?と考えこんでしまいます。

フィナンシャルプランナーの仕事は、顧客のライフプランに沿って、顧客が「しあわせ持ち」になるための

アドバイスをすることです。

そのために手段として金融商品の販売をおこなうFPもいます。

FP資格を持つ人にもいろいろな方がいて、属性で言うと大多数は金融機関の販売員です。

ほかには保険などの販売代理店の販売員と極めて少数の独立FPです。

すなわちFPをアドバイザーと販売員で分けると、圧倒的多数は販売員です。

アドバイザーと販売員の違いについて、みんなのお金のアドバイザー協会(FIWA)

理事長の岡本和久さんは、アドバイザーを栄養士、販売員を肉屋に例えて次のような

たとえ話をされています。

肉屋さんの仕事はお客様が必要とする良質の肉を適正な値段で売ることです。栄養士さんはお客様の健康状態から考えてどのような食事をしたら良いかをアドバイスする人です。どちらも立派な職業です。しかし、もし、栄養士さんが実は肉屋さんの販売員も兼業していたらどうでしょう。 どうしても肉食に偏ったアドバイスになってしまうでしょう。これは相談者の健康にとって大きな問題です。

先ほどの銀行の例で言えば、販売員はどうしても手数料の高い複雑な商品をお客様に

勧めがちです。

販売員も生活を成り立たせなくてはいけないので、当然です。

問題は、販売員が勧めた商品が、本当にお客様の役に立っているか?です。

もう少し言うと、商品販売を前提にお客様の話を聞くと、どうしても持っている(あるいは自分が知っている)商品の中からどれを選ぶか?という視点になりがちです。

これはこれでよいと思うのですが、必ずしもお客様の全体像を踏まえてのお勧めとは

言えないことがあると思います。

アドバイスするFPの基本的な考え方が、保険や証券の有用性に立ったアドバイスならば、保険や証券を扱わないFPのアドバイスとはアドバイスの立ち位置が本質的に異なったものになります。

「金融商品を売らないで喰っていけるか!」という批判に対しては

「価値あるアドバイスを提供することで相応の対価を頂くことができるように

世の中を変えていきたい」

という回答になるでしょうね。

芸能やスポーツの世界では、プレーヤーのレベルを上げるのは目標になるようなプレーヤーと、それを評価して楽しむ目の肥えた観客の存在です。

プレーヤーのレベルが上がっていって、お客様に金融リテラシーが普及すると、金融商品販売から独立したアドバイスの本当の価値が本当に試されることになりますね。

本当に世の中が変わるかどうかは10年スパンの話です。

日々の努力が10年後に実を結ぶかどうかを楽しみしながら日を送るのも

善いかな・・と思っています。


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